同一労働同一賃金公開日:2022年1月24日 更新日:2022年2月14日

ジョブ型雇用への移行は進むのか
〜メンバーシップ型雇用の慣行を紐解いて考える〜

弊所ではクライアント企業の依頼を受け、人事評価制度・賃金制度のコンサルティンを実施していますが、人事評価制度・賃金制度のコンサルティングの場において、企業規模を問わず、定義(ジョブ型とは何?メンバーシップ型とは何?など)やジョブ型とメンバーシップ型の違いを教えて欲しいなどの質問だけでなく、今後はメンバーシップ型を解消してジョブ型に移行すべきか、我が社ではメンバーシップ型を堅持したいが問題はあるか、といったような相談を受けることが非常に多くなりました。
弊所ではクライアント企業の依頼を受け、人事評価制度・賃金制度のコンサルティンを実施していますが、人事評価制度・賃金制度のコンサルティングの場において、企業規模を問わず、時代の流れからメンバーシップ型を解消してジョブ型に移行すべきか、我が社ではメンバーシップ型を堅持したいが問題はあるか、といったような相談を受けることが非常に多くなりました。
本特集記事では、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の特徴を整理し、今後進むべき方向性について探っていくことを目的としています。

ジョブ型雇用に移行すべきか
〜同一労働同一賃金などの諸課題への対応も考慮して〜

2009年頃から「ジョブ型」、「メンバーシップ型」という言葉自体は存在(グローバルスタンダードのジョブ型、我が国独自のメンバーシップ型の雇用慣行自体はもっと以前から存在)しますが、特に2020年以降よく目にし、また耳にする言葉になりました。これは経団連が公表した「2020年版 経営労働政策特別委員会報告」においてジョブ型を大きく打ち出したことが影響しているものと思われます。今では、ネット記事、ブログ、書籍、セミナーなど、ジョブ型をテーマとしたものが数多く見受けられるようになりました。ジョブ型を導入したとプレスリリースする企業も出てきたくらいです。
ジョブ型の対になるものとして、メンバーシップ型がありますが、メンバーシップ型は同一労働同一賃金になじみにくく、同一労働同一賃金に対応する為にはジョブ型に移行すべきである、またグローバル人材を採用する為にはグローバルスタンダードであるジョブ型を導入すべきである、裏を返せば今後はメンバーシップ型を解消していくことになるだろうといった論調の、ややネガティブな取り上げ方をされていることが多いように感じます。
では、今後は本当に我が国はメンバーシップ型を解消し、ジョブ型に移行していくことになるのでしょうか。
まずはジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の定義について整理し、続いてメンバーシップ型とジョブ型による雇用慣行の特徴を典型的な例を掲げて次項以降で見ていきます。

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の定義

■ジョブ型雇用とは?

ジョブ型雇用とは、職務に人を付けるグローバルスタンダードな雇用慣行です。
職務記述書(ジョブディスクリプション)により、担当する職務内容、職務の範囲、職務の難易度、必要な資格やスキルなどを記載し職務を明確化します。空きポストの職務に社内外から人員を募集し採用します。
職務に人を付けるので賃金は職務給になります。

■メンバーシップ型雇用とは?

メンバーシップ型雇用とは、人に都度必要な職務を付ける我が国独自の雇用慣行です。
人に職務を付けるので職務の範囲を限定しないのが通常です。採用時に職務を明示していたとしても他の職務へ異動の可能性があります。
他の職務へ異動しても賃金を変更しないので、賃金制度は職能給や役割給などのヒト基準になります

メンバーシップ型による雇用慣行の特徴

はじめに、メンバーシップ型による雇用慣行について①〜⑳の特徴を「採用」「賃金」「使用者の人事権」等の項目に分けて記します。

■採用

  • ①採用は新卒採用、中途採用があり、中途採用は空きポストに対して、社外から人員を募集し採用する(社内は人事異動で対応する)
  • ②新卒、中途採用ともに、募集職務・職種が未経験であってもよく、「ヒト」として会社の「メンバー」にふさわしい者であるかどうかを重視して採用する
  • ③新卒、中途採用ともに、会社の「メンバー」にふさわしい、求める人材像を把握している本社人事部門が行う
  • ④使用者には広範な採用の自由が認められており、職務と関連の無い思想や過去の行動による採用差別が、判例により実質的に一定程度認められている
  • ⑤性別、年齢による個人の属性での採用差別が法律で禁止されているが、年齢については厚生労働省令を満たせば若年者を優遇する(裏を返せば中高年者を不遇する)といった実質的な年齢差別が可能である
  • ⑥学校教育、とりわけ高等学校普通科や大学では、職務に直接的に関係しないアカデミックな内容を学ぶことから、学校で受けた教育内容は採用にあたって重要視されない
  • ⑦教育界では、企業が求めるような職業教育をしてこなかった背景から、1960年代以降に企業内部で未経験新規学卒者のOJT、Off-JT、定期人事異動によるローテンションといった日本型の社内職業訓練体制や雇用慣行を発達させてきた(未経験者を社内で鍛えるがゆえ、職務内容が無制限となった)
  • ⑧新卒採用・中途採用において、職務経験や職務を遂行する技能に乏しい若者が好んで採用される

■賃金

  • ⑨人に値段をつける、つまり賃金決定はヒト基準である
  • ⑩様々な職務へ異動の可能性があることから、賃金決定は職務と切り離したヒト基準にならざるを得ない
  • ⑪企業別に労働組合を結成して団体交渉し、企業別に賃金を決定する
  • ⑫ヒトに値段をつけるために、そのヒトの職務遂行能力(特定の職務を遂行する能力ではなく、人間性を含めた社内の幅広い業務を遂行する潜在能力)や情意(規律性、責任制、積極性、協調性で構成される仕事に対する姿勢やヤル気)を明示的又は暗黙的に評価し、そのヒトの賃金を決定する
  • ⑬賃金はヒトにリンクしており、他の職務に異動して職務が変わっても賃金が変わらない
  • ⑭職務遂行能力や情意評価により賃金を決定することが多く、目に見えない職務遂行能力や情意を評価することが難しいので、結果的に年功的な運用となっている
  • ⑮新卒採用から定年までの賃金システムより、労働者が若い時は生産性よりも低い賃金を支払い、中高年者は生産性よりも高い賃金を支払うことから、生産性よりも高額な賃金を受け取っている中高年者が、しばしば批判の的となる(成果主義の導入など)

■使用者の人事権

  • ⑯使用者の人事権が非常に強く、職務や職場が無制限の正社員であれば、人事権を行使して会社都合の人事異動が可能である
  • ⑰賃金はヒト基準であることから、難しい職務から、易しい職務に異動しても、賃金の変更を伴わない(反対も同様である)

■解雇

  • ⑱雇用契約上、特定の職務を遂行する契約になっていないので、特定の職務が無くなっても正当な解雇事由とはならず、解雇する前に異動の可能性がある他の職務へ異動させる必要がある

■定年

  • ⑲年齢のみによる強制「退職」を意味する定年が法律上認められており、定年退職後再雇用制度を多くの企業が導入していることから、定年による「退職」という意味合いは薄れ、中高年者の高賃金を引き下げるためのメンバーシップ型「賃金の清算年齢」の性質を有する

■正社員と非正規労働者との格差問題

  • ⑳非正規労働者は会社のメンバーシップを有しておらず、賃金は他社の募集職種の賃金などを参考として職務基準で決定するが、結果として最低賃金プラスアルファ、定期昇給制度・賞与・退職金制度無しの条件であることが多く、正社員との待遇格差の問題を有する
以上が、メンバーシップ型による雇用慣行の特徴です。
次ページでは、ジョブ型の雇用慣行の特徴について典型的例を掲げて見ていきます。

ジョブ型による雇用慣行の特徴

続いて、ジョブ型による雇用慣行について①〜⑰の特徴を「採用」「賃金」「使用者の人事権」等の項目に分けて記します。

■採用

  • ①採用はその職務(ジョブ)に必要な人員を採用する、つまり空きポストに対して社内外から人員を募集し、採用する
  • ②採用される者は募集職務を遂行できる経験や技能を有する者となる
  • ③空きポストに必要な人員の採用は職務(ジョブ)を把握している現場の長が行う
  • ④我が国ほど使用者に広範な採用の自由は認められておらず、職務(ジョブ)とは関係ない個人の属性(年齢、性別、人種など)での採用差別は禁止されている
  • ⑤学校教育で職務知識や職務に関連した技能を身につけることから、学歴は知識・技能などを証明する資格証明書となる
  • ⑥職務経験や職務を遂行する技能に乏しい若者が採用されにくい

■賃金

  • ⑦職務(ジョブ)に値段をつける、つまり賃金決定はジョブ基準である
  • ⑧職務(ジョブ)が特定されていることから、賃金決定はジョブ基準となる
  • ⑨職業別、産業別で労働組合を結成して団体交渉し、企業を横断して職種ごとに賃金を決定する
  • ⑩職務(ジョブ)に値段をつけるために職務記述書(ジョブディスクリプション)が作成され、そのジョブの賃金を決定する
  • ⑪雇用契約は職務(ジョブ)で契約している為、会社が一方的に職務を変更することはできない
  • ⑫賃金決定はジョブ基準なので、年功的な運用とはならない
  • ⑬賃金決定はジョブ基準なので、我が国のような生産性よりも高額な賃金を受け取る中高年者の問題は発生しない

■使用者の人事権

  • ⑭ジョブ基準で雇用契約を締結している為、使用者が人事権を行使しての当該職務以外の人事異動はありえない

■解雇

  • ⑮ジョブ基準で雇用契約を締結している為、職務(ジョブ)が無くなることが正当な解雇事由となる

■定年

  • ⑯年齢のみによる強制退職を意味する定年は、アメリカでは禁止され、ヨーロッパ諸国では年金支給開始年齢を下回る定年は禁止されている

■正社員と非正規労働者との格差問題

  • ⑰非正規労働者であろうが正社員であろうがジョブ基準で採用されるので、我が国のような格差問題は生じない
以上が、ジョブ型による雇用慣行の特徴です。
メンバーシップ型とジョブ型の特徴を見ていきましたが、我が国では今後、メンバーシップ型を解消してジョブ型への移行が進んでいくのでしょうか、それともジョブ型に移行することなく今までどおりメンバーシップ型が主流になるのでしょうか。
次項以降、私見を交えて解説していきます。

同一労働同一賃金へ対応するために

■我が国では今後ジョブ型への移行が進むのか

皆様ご承知のとおり、我が国では同一労働同一賃金に関し法制化されました。また、人材の採用においては、特定の業種や職種ではグローバル化がより一層進んでいます。続いては、雇用慣行と、我が国独自の同一労働同一賃金、最後にグローバル化との関連についてみていきます。

■メンバーシップ型とジョブ型は雇用慣行である

メンバーシップ型とジョブ型は雇用慣行であり、その雇用慣行が形成されるには歴史的背景があります。どちらが良い悪いという話では無いのです。

メンバーシップ型を解消し、ジョブ型に移行する為には、先に掲げた「メンバーシップ型による雇用慣行の特徴」をジョブ型に移行しなければなりません。移行するといっても、学校教育の問題とも密接にかかわっており、会社独自で移行することは容易ではありません。また、使用者が有するの採用の自由、人事異動などの裏付けとなる広範な人事権といった、いわばメンバーシップ型のメリットと認識できるものを、捨て去る覚悟があるのか、についても問われてきます。さらに、今までメンバーシップ型で雇用してきた社員の待遇を、今後どのように変更するかなどの現実的な問題もあります。
とはいえ、法制化されたいわゆる「同一労働同一賃金」に対応しなければなりません。それでは、一体どのように対応すればよいのでしょうか。やはりジョブ型に移行すべきなのでしょうか。

■わが国独自の同一労働同一賃金とは

我が国において「同一労働同一賃金」という名称は、法律上規定されておらず単なる呼称(スローガンのようなもの)にすぎません。正しい名称は、パート有期労働法に規定されている、「正規と非正規の不合理な待遇差の禁止」(以下、我が国独自の同一労働同一賃金、といいます)です。我が国には、同一の職務に対しては同一の賃金を支払わなければならないことを義務化した法律は存在しないのです。

我が国独自の同一労働同一賃金は、もっぱら正規労働者と非正規労働者(パート、有期労働者、派遣労働者)との比較において、賃金のみならず全ての待遇差を規制の対象としていることが特徴です。※待遇差を測るにあたり、均等待遇(同一待遇にする)と均衡待遇(違いに応じた待遇にする)の二とおりの考え方がありますが、ここでの説明は割愛します
これは、1990年代後半から全労働者に占める非正規労働者の割合の増加し、非正規労働者が「メンバーシップ型」のメリットを享受できず、低賃金、低待遇で働いていることが、正社員との格差問題となり、国を挙げての社会問題と認識されたことが背景にあります。その社会問題を解消すべく法制化されたのです。

■同一労働同一賃金への対応にジョブ型への移行が必要か

我が国独自の同一労働同一賃金に対応するには、正規労働者と非正規労働者の不合理な待遇差を解消すればよいのであって、雇用慣行までをジョブ型に移行する必要はありません。今までメンバーシップ型で雇用してきた正社員を、全てジョブ型に移行することは困難極まりないでしょう。今後もメンバーシップ型を維持してもよいのです。ジョブ型を導入したと発表した、企業のプレスリリースを見ても、純粋ジョブ型に移行したものとはほど遠く、会社内の一部の社員について、メンバーシップ型の雇用慣行の基礎は維持しつつ、社員の職務を限定し、職務給の要素を入れた(メンバーシップ型にジョブの要素を取り入れた)制度を導入した企業が多くある印象です。メンバーシップ型、ジョブ型の言葉が独り歩きしていますが、他社事例を自社対応の判断材料にするにあたっては、良く見極める必要があります。

しかし、メンバーシップ型を維持するとしても難題があります。「メンバーシップ型による雇用慣行の特徴」⑳に掲げた「非正規労働者は会社のメンバーシップを有しておらず、賃金は他社の募集職種の賃金などを参考として職務基準で決定するが、結果として最低賃金プラスアルファ、定期昇給制度・賞与・退職金制度無しの条件であることが多く、正社員との待遇格差の問題を有する」について、どのように対応するかです。メンバーシップ型のメリットを享受してきた正社員と、低賃金、低待遇の非正規労働者の不合理な待遇差が存在する企業においては、その待遇差を是正する為に対応しなければなりません(当然、待遇差が無い場合は対応する必要はありません)。これは、ジョブ型に移行しようが、すまいが対応しなければならない我が国の社会問題となります。
対応方法は大きく分けて、正社員の賃金・待遇を引き下げるか、非正規労働者の賃金・待遇を引き上げるかの二者択一となります。しかし、そんなに簡単な話ではなく、人件費アップや不利益変更などを伴いますので注意が必要であり、会社ごとに対応方法が異なってくる分野でもあります。
諸手当、休暇制度などへの対応は、厚生労働省が公開している「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル」に解説されているのでそちらをご覧いただくとして(読んでも判断が難しい場面が多々あるかもしれませんが・・・)
次項以降では、メンバーシップ型を維持しながら、今後望ましいと考える人事制度(人事評価制度・賃金制度、その他の待遇はここでは割愛)について概要を解説致します。

望ましい人事制度(人事評価制度・賃金制度)

■我が国独自の同一労働同一賃金に対応する為にはどのような人事制度(人事評価制度・賃金制度)が望ましいか

メンバーシップ型を維持しつつ我が国独自の同一労働同一賃金に対応し、正規労働者と非正規労働者の不合理な待遇差を解消する為の人事制度(人事評価制度・賃金制度)改定の道筋は次のとおりです(対応方法は多種多様であり、一つの参考としてとらえてください)。

  • ・正社員及び非正規労働者それぞれの、職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲を整理し、正社員と非正規労働者間に明らかな差があることを明確化する
  • ・明確化したものを厳格に運用し例外はつくらない
  • ・正社員に等級制度を導入し等級別に期待される役割・必要とされる知識技能を定義する
  • ・正社員は期待される役割をいかに果たしたかを評価する
  • ・正社員に対して上位等級者には個人目標制度を導入する
  • ・非正規労働者に正社員とは別の等級制度を導入し、等級ごとに簡易な職務を定義する
  • ・非正規労働者に対しては簡便な職務の評価制度を導入する
  • ・等級別に基本給のレンジ(上限下限値)を設定する
  • ・正社員の賃金はヒト基準である以上、特に非管理職正社員に対しては評価結果に基づき同一等級内の定期昇給(いわゆる年功賃金)を実施する(当然、基本給レンジの上限に達すればそれ以上の昇給はしない)
  • ・昇格させる場合は評価結果等に基づき厳格に審査をし、安易に昇格させない(年功により昇格させない)
  • ・非正規労働者の賃金は職務基準としているので、職務のレベルが上がったときなど、モチベーションの維持向上の観点から随時または契約更新時など定期に昇給することを検討する
  • ・正社員に賞与を支払い非正規労働者に賞与を支払っていない場合、非正規労働者の賞与として寸志を支払うか、次の判決が出るまで現行ルールを維持する(現行ルールを維持する場合は、賞与不支給が不合理と判断されるリスクが残る)
  • ・正社員に退職金を支払い非正規労働者に退職金を支払っていない場合、非正規労働者に社員の退職金制度とは別の退職慰労金を支払うか、次の判決が出るまで現行ルールを維持する(現行ルールを維持する場合は、退職金不支給が不合理と判断されるリスクが残る)
最後に、ジョブ型とグローバル人材との関係を見ていきます。

グローバル人材に対応するために

■グローバル人材・高度専門知識を有する社員を採用する為にはジョブ型への移行は必要か

社員の採用は労働市場の需給環境に左右されます。他社の求人などを確認し求める人材がジョブ型に基づいて募集され、求職者もジョブ型を求めて応募するのであれば、グローバルな雇用慣行であるジョブ型によって雇用しなければ、必要な人材が確保できません。よって、この分野においてはジョブ型への移行は急務かもしれません。

そもそも、グローバル人材や高度専門知識を有する社員の雇用慣行は、既にジョブ型か、ジョブ型に近いものとなっていること多いと思われます。他の社員の雇用慣行がメンバーシップ型の場合、ジョブ型とメンバーシップ型のダブルスタンダードで雇用することになるでしょう。