健保厚年保険 更新日:2024年4月10日

健保の標準賞与の上限額はなぜ年度(年間)累計で判定するのか

賞与から控除される保険料は、賞与支給額(税引き前の総支給額)から1,000円未満を切り捨てた額を「標準賞与額」とし、その「標準賞与額」に健康保険・厚生年金保険の保険料率を乗じた額です。

標準賞与額の上限額は、健康保険では年度の累計額573万円(年度は毎年4月1日から翌年3月31日まで)、厚生年金保険は1カ月あたり150万円とされています。
従業員に賞与を支給したときの手続き(日本年金機構)
では、なぜ健康保険料が年度(年間)の累計額で上限額を算定するのに対して、厚生年金保険料は1カ月の支給額で上限額を算定するのでしょうか。

賞与から控除する健康保険料、厚生年金保険料等の変遷

この疑問を解く手がかりとして、まずは賞与から控除する健康保険料、厚生年金保険料等の変遷をみていきましょう。

◆~2003年(平成15年)3月

  • ・賞与の金額に対して低率の10/1000を特別保険料として徴収。
    ・月例給与から控除する保険料と異なり、傷病手当金、出産手当金や年金額には反映されない為、名称は「特別保険料」。
◆2003年(平成15年)4月~

  • ・総報酬制を導入に伴い「特別保険料」は廃止し、標準賞与に対して月例給与と同率の保険料率で計算した保険料を徴収。
  • ・賞与から控除した保険料は年金額に反映。
  • ・標準賞与の上限額は1カ月あたり健保200万、厚年150万円。
  • ※この時点では健保は年度(年間)累計の考えをとっていません。
◆2007年(平成19年)4月~

  • ・標準賞与の上限額を健康保険のみ年度(年間)累計540万円に変更(厚年は引き続き1カ月150万円)
  • ・月例給与から控除する報酬月額の上限等級の報酬を980千円から1,210千円に引き上げ。
  • ・傷病手当金、出産手当金の給付割合を6割から2/3に引き上げ(賞与水準を反映)。
◆2016年(平成28年)4月~

  • ・賞与の上限額を健康保険のみ年間累計573万円に変更(厚年は引き続き150万円)
  • ・月例給与から控除する報酬月額の上限等級の報酬を1,210千円から1,390千円に引き上げ。
なぜ、2007年(平成19年)4月から標準賞与の上限額を健康保険のみ年度(年間)累計540万円に変更したのか、当時の厚生労働省 医療保険部会で議論された記録が公開されていないことから確認することができませんでした。
また、厚生労働省(本省)に直接確認したところ、当時のことは確認できないと回答を得ました。

なぜ年間累計にしたのか、経験に基づく推測

なぜ年間累計としたのかについて、私の経験上の推測に留まりますが、次のとおりと予想します。
  • 1. 役員を中心に、標準賞与の上限額を利用して社会保険料を削減することを目的として、賞与の上限額(健保200万円、厚年150万円)を大幅に超える賞与を支給し、月例給与を著しく低額とする事案が多く見受けられたので、その事案に対して適正保険料の負担を求める為に年間累計とした。
    (社会保険料削減コンサルタントが多く存在した時代であると記憶しています)
  • 2. 年度(年間)累計540万円の根拠は、我が国において賞与は年2回支給することが通例であること(ひと月の上限額200万円×2回)に加え、同時期の2007年(平成19年)4月より、月例給与から控除する報酬月額の上限等級の報酬が980万円から1,210万円に引き上げられたこと、傷病手当金、出産手当金の給付割合を60%から2/3(66.666・・・%)に引き上げたことを加味した金額であること。
  • 3. 健康保険のみ年間累計を導入し、厚生年金は年間累計を導入しなかった理由については、健康保険は短期給付であることから比較的タイムリーに保険料徴収の仕組みを改定をすることが可能であるが、厚生年金保険の多くは終身給付(年金)であることから保険料徴収の仕組みを改定すると将来受給する年金額に大きな影響を及ぼす為であること、健康保険を年間累計とすれば、上記1の是正は可能であるので、敢えて厚生年金に年間累計を導入する必要は無かった為であること、が考えられ
    る。
エビデンスがなく推測となりますが以上のとおりです。