同一労働同一賃金公開日:2022年6月21日 更新日:2022年6月21日

能力主義人事制度のデメリットを解消する人事制度とは

能力主義人事制度(以下、能力主義)とは、人材が仕事を創るという基本理念のもと、人材の育成と成長に全力を傾ける「人間基準」の人事評価制度・賃金制度のことです。筆者は楠田丘氏が能力主義(職能資格制度、職能給 等)の理論を確立したと理解しており、1975年以後、特にバブル崩壊まで数多くの日本企業に新規導入され我が国全体に広く浸透しました。
バブル崩壊後は能力主義のデメリットが数々指摘され、新たに成果主義を導入したり、形を変えた人事制度に転換したりする企業もありましたが、日本独自の雇用慣行であるメンバーシップ型雇用との親和性が非常に高いことから、能力主義を引き続き運用及び新規導入する企業はそれなりに多く、現在においても能力主義はわが国において最もポピュラーな人事制度であると筆者は認識しています。
弊所では能力主義の導入コンサルティンを実施しておりませんが、人事コンサルタントとして我が国の最もポピュラーな人事制度を十分に理解する必要があり、その一環として本記事においては、楠田丘氏の理論による能力主義をます解説いたします。

1.能力主義の概要

能力主義は職能資格制度をベースに設計されます。職能資格制度においては、等級は能力の発展段階と定義し、職種別等級別の標準的な期待像として、職能資格等級基準となる職種別等級別職能要件の作成がなされます。

特徴としては、職能資格制度には降格という概念は存在しないことが挙げられます。職能資格は本人に与えられた過去の栄誉であり、過去の努力による能力の高まりに応じて与えた称号であるから落ちることはないと考えられていることが理由です。ただし、職能資格ではない役職については、下位の役職に下げる降職はありうるとされています。
人事考課の対象は「能力」であり、人材の成長に応じて賃金を上げていく、という基本的発想があります。能力主義における「能力」とは職務遂行上必要とされる能力(職務遂行能力)のことであり、職務と関係の無い能力は対象外となります。「能力」を評価する際、能力は目に見えないことから、職務行動(職務に関する行動)により、職務を通して発揮された「能力」を考課します。人事考課は絶対効果が原則です。フィードバックして個をみつめた能力開発につなげる為です。
能力主義における賃金制度のメインは職能給です。課長以上では、業績(後述する業績考課の業績のことであり、一般的な業績ではない)を加味した役割給の併用を認めています。
働きの前半、つまり育つまでは働きよりも低い賃金を支払い、生涯労働の後半、つまり育った後は働きよりも高い賃金を支払うという形をとり、生涯労働でバランスをとるという、「終身決済型の賃金制度」であることが特徴です。途中で辞めることは本人にとって不利益になることから、人材は一生涯その企業にコミットし最後までその企業に留まろうとします。つまり、熟練労働力の定着と社員満足の高揚が根底の理念としてあります。
しかし、バブル崩壊後の低成長下、また高齢化が進む中、この理念には疑問符が付き、時として批判の対象となりました。
処遇の安定性と配置の機動性を達成するために、昇格と昇進を分離し、処遇は昇格で行い、昇進は配置の理論に立って行います。
根底に、処遇の安定化をまず第一に図り、次に人材育成と活用を確実にしていくという考えがあります。
また、昇進の多様化に応えるため、管理職昇進、専門職昇進、専任職昇進などの職群基準の導入の必要性を説いています。

2.職能資格等級制度について

職種別等級別の標準期待像として、職能資格等級基準となる職種別等級別職能要件(以下、職能要件)を作成する必要があり、職務調査を通じて職能要件は作成されます。職能要件は、職務遂行能力の発展段階である等級ごとに弾力的な幅をもち、全社的に統一された内容で設定され、評価、育成、処遇の基準となります。
職能要件を作成する為の職務調査の手順は次のとおりです。

①課業の洗い出しと評価

会社にどんな課業(仕事)があるのか職種別に洗い出し、その課業は何等級の人にこなしてもらうことを期待するのかを評価します。

  • ※職種とは要求される知識、技能の系列の違いによる区分(企業規模により異なるが、職種は15から30程度)のことです
  • ※これ以上分割・分担されない、1課業1評価できる単位で課業を洗い出します

②個人別課業分担の把握

洗い出し評価した課業を、誰がどのように分担しているのかを把握します。

③職能要件の作成

職能要件は職種別等級別に、習熟要件(仕事を覚える)、修得要件(勉強をする)、職歴要件(経験を積む)で設定します。

習熟要件は、「できる」、「独力でできる」、「完全にできる」の3段階でとらえます。修得要件は、修得すべき知識・技能の保有を考課します。
標準的な等級数は9から10等級数(ジュニアクラス3等級、シニアクラス3等級、マネジャークラス3から4等級)が適切とされています。
対応役職は下限にセットし、例えば7等級に課長を対応させたなら、課長になるためには7等級以上の資格が必要という解釈となります。例えば、ジュニアクラスは一般係員、シニアクラスは班長、係長、マネジャークラスは課長、次長、部長といった具合です。
自動昇格年数(表示)、理論モデル年数(非表示)、最短必要年数(表示)、最長年数(非表示)が設定されます。
安定的な期待感を大きく阻害するようなあり方である“抜てき人事”は、人の和を阻害する意味において適切でない場合が多い、とされ認めていません。例えば、全く新し部門に配転されて、その等級にふさわしい能力を身につけていない場合もあり、その等級にふさわしい能力レベルに回復するまで2、3年かかるとします。その間、同じ部門にとどまっている者もおり、同じ部門にずっといる者はどんどん昇格してしまう可能性があります。配転された人が不利益を被るようなことはあってはならず、最短必要年数を設定することは必ず必要とされています。

3.能力主義の人事考課について

人事考課は、「成績考課」、「情意考課」、「能力考課」の3種類を全部門で対象とします。
「業績考課」は営業、開発部門などに限定してプラスし、人事考課を4種類とする場合があります。
人事考課は一般に、S、A、B、C、Dや5、4、3、2、1などの段階に分けて運用されます。
成績考課は賞与、能力考課は昇格昇進の対象とされます。

(1)成績考課

「与えられた職務の遂行度」と「仕事の質と量」が考課要素となります。

「与えられた職務の遂行度」は、職務のレベルや広がりは問題にされません。
上司が部下に対してやれといったこと、部下が上司に対しやるといったこと、それらをどの程度こなしたのみが考課の対象となります。そのやれといったこと、やるといったことの、レベルや広がりは問題にならず、例えば、クリアすべきバーを越えたかどうかを考課するのが成績考課(バーの高さは問題にしない)ということです。
なぜ、レベルや広がりを問題にしないのか、それは例えば中高年層の比重が高くなれば、本人にいくら能力があったとしても、それにふさわしいレベルの職務を会社の都合によって与えられない場合があります。その場合であっても、各人がその時課せられた職務、つまり職責を十分にこなすことが組織として最も重要なことであると考えていることが理由です。
職務のレベルが低いからといってどんなにうまくやっても考課は低く、職務レベルが高ければ考課は高いとするあり方は、本人の意思や能力に関わらず、いろいろなレベルの職務が与えられるような状況のもとでは不適切であるとされています。
「仕事の質と量」は、仕事の質つまり「正確性」の側面と、量つまり「迅速性」の側面で評価します。正確に仕事をこなせば「質」は上がり、迅速に仕事をこなせば「量」が増える、という考え方です。仕事の「質」と「量」は切り離しにくいので、「仕事の質と量」という考課要素で両面から評価します。仕事の質と量の評価は、例えば等級が低いジュニアクラス(一般係員)までは対象とする意義はありますが、シニアクラス以上に導入するのは適切ではない場合もあるとされています。

(2)情意考課

成績、能力、業績がすぐれていても、組織の一員として自覚を測る必要があることから、別途設定する考課要素であり、4種類の考課要素で構成されています。

規律性
日常の服務規律の順守度(職務規律を守っていたかどうか)
責任制
自分の守備範囲をどんなことがあっても守ろうとする意欲の度合い(守ろうとする意欲をもって職務に臨んでいたかどうか)
協調性
守備範囲外だがチームワークにプラスになる行動をとっていたか、組織の一員としての自覚の度合い(組織の一員として自覚に燃えて行動していたかどうか)
積極性
改善・提案、自己啓発、チャレンジの意欲の度合い(事態の改善やプロモートに対して意欲的に臨んでいたかどうか)

(3)業績考課

成績考課の「与えられた職務の遂行度」では職務のレベルや広がりは問題にされませんでしたが、業績考課は職務のレベルと広がりを加味したものとなります。
その時与えられた職務が本来の等級に比べてどのような状況にあったかが加味されますので、業績考課は能力に近いとされています。バーを越えたかどうかのみならず、バーの高さも念頭に置いて考課します。
例えば、営業・研究・企画部門・管理職・専門職など、職務の選択や拡大が本人の意思で自由であるときは、成績と合わせて業績考課の対象とすることは意義があるとされています。
成績考課との違いは、「君はなにもやるな」と言われ、何もやらなければ成績考課は申し分ないからA評価、業績考課では何ら企業に貢献はしていないから最低のD評価となることです。

(4)能力考課

職務のレベルや広がりを職能資格等級基準に照らして能力の高さを判定するものです。

能力考課の要素は、「体力」、「修得能力」、「習熟能力」の3種類です。
なお、能力には「顕在能力」と「潜在能力」に分けることができます。
「顕在能力」は表にはっきりと形に現れる能力のことです。職務遂行能力は職務遂行結果として表に現れる顕在能力となり、職務を媒体として把握することができます。ただし、能力を発揮する職務を遂行する機会が与えられないと、たとえ能力があっても表面に現れず後述する潜在能力となってしまいます。
一方、「潜在能力」は表には現れることなく内部に潜んでいる能力のことです。顕在能力のように媒体として表面化することが無いので、試験、面接などで把握することになります。
職務のレベルや広がりを職能資格等級基準に照らして能力の高さを判定するものです。
能力考課の要素は、「体力」、「修得能力」、「習熟能力」の3種類です。
なお、能力には「顕在能力」と「潜在能力」に分けることができます。
「顕在能力」は表にはっきりと形に現れる能力のことです。職務遂行能力は職務遂行結果として表に現れる顕在能力となり、職務を媒体として把握することができます。ただし、能力を発揮する職務を遂行する機会が与えられないと、たとえ能力があっても表面に現れず後述する潜在能力となってしまいます。
一方、「潜在能力」は表には現れることなく内部に潜んでいる能力のことです。顕在能力のように媒体として表面化することが無いので、試験、面接などで把握することになります。

■「修得能力」は知識・技能の保有を判定します。

本を読んだり話を聞いたりすれば修得できるものが知識、そうでないものが技能というように知識と技能を区別しています。

■「習熟能力」は経験を積むことによって高められる能力で、能力主義では主に「判断力」「企画力」「折衝力」「管理力」があるとされています。

判断力
経営の方針に照らして何をすべきか的確にとらえていく能力。情報をたくさん集めて、正しく自分のとるべき行動を的確につかむ能力。
企画力
目的を実現する上で最も効率的な手段を構築する能力。経営方針に沿って何をなすべきかを判断し具体的な行動として組み立てていく能力。
折衝力
自分の意思を相手側に正しく伝え、相手を自分に有利にするよう動かす対人能力。
管理力
部下を掌握する能力。
なお、上記4つの考課要素は、能力の発展段階により変化するとされています。
例えば、
「判断力」は、ジュニアクラスでは理解力、シニアクラスでは判断力、マネジメントクラスでは決断力
「企画力」は、ジュニアクラスでは工夫力、シニアクラスでは企画力、マネジメントクラスでは開発力
「折衝力」は、ジュニアクラスでは表現力、シニアクラスでは折衝力、マネジメントクラスでは渉外力
「管理力」は、ジュニアクラスでは対象外、シニアクラスでは指導力、マネジメントクラスでは管理統率力
のように変化します。

4.能力主義の賃金制度について

楠田氏が提唱する能力主義の賃金制度の類型は次のとおりです。

(1)生活能力・・・年齢給

賃金体系構築において年齢給は不可欠な要素であり、年齢給の意義は次のとおりであるとされています。

  •  ・安定した子女の成長を確保する。
  •  ・仕事や能力とは関係なく、年齢が1歳上がれば年齢別生計費を一刻み上げるという形で労働力の成長を確保する。
  •  ・年齢別生計費をカバーする。

(2)習熟能力・・・年功給(勤続給)

年功給(勤続給)の意義は次のとおりであるとされています。

  • ・年月の価値に対応するもので、年功尊重の人事を実現。
  • ・勤続の価値を尊重するもの。

(3)保有能力・・・職能給

職能給の意義は次のとおりであるとされています。

  • ・修得能力、習熟能力の累積である保有能力の質と量で決めるもの
  • ・保有能力をみつめるもの

5.楠田氏の樹木モデルについて

2010年ごろ楠田丘氏はセミナーで次のようなことを語っておられました。要約すると次のとおりです。
バブル崩壊後、高齢化、低成長、IT化、国際化の中で右上がりの3%の賃金カーブである職能給は維持不能となり、能力主義が適応性を失いつつある中で、年功能力、生活能力、職務遂行能力の賃金が修正を問われています。その為には、能力と成果を調和させた能力主義プラス成果主義が必要です。
人材の成長は樹木モデルで説明できます。人材は成長する材であり、企業の財産・財宝としての財ではありません。成長する「木」である必要があり、見た目は美しいが閉じてしまう「貝」ではダメなのです。樹木の根や幹は職能資格制度であり、幹は年輪を重ねながら成長していきます。枝は役割であり、葉、花、果実は業績です。インプットは能力、アウトプットは成果、能力主義があって成果主義が成り立ちます。
能力主義は批判こそあれ、楠田丘氏の前述の言葉は「人間」を大切にし、人材の育成と成長に注力した能力主義そのものを表すもので大変含蓄に富んだ表現であると感じております。

6.能力主義のデメリットを解消する人事制度について

筆者は、能力主義自体はメンバーシップ型雇用の我が国と親和性は高いと考えますが、楠田氏の理論どおりの能力主義を厳格に構築・運用することは非常に難しく難易度が高いと考えております。また、能力は直接評価することが難しい、降格が無い、評価結果があいまいになりがち、結果勤続年数をベースに年功的な評価となりがちなどの批判がなされ運用に苦慮している企業を見受けることがあります。
筆者はそれらのデメリットを解消しうる、役割・能力・成果をバランスさせた「トライアングル人事制度」の導入コンサルティングを実施しています。「トライアングル人事制度」とは人事制度の主要ファクターである、役割・能力・成果をバランスさせた制度です。
等級ごとに「期待される役割」を定義し、「成果」を「期待される役割をどれだけ果たしたか」とシンプルに定義します。能力のうち、知識・技能に限ってはその保有を評価することできるので「能力評価」は知識・技能に限定します。
詳細はこちらをご覧ください。
参考文献
人事考課の手引き(日経新聞社 著者 楠田丘)、人を活かす人事評価制度(経営書院 著者 楠田丘)、新しい人事考課(産業労働調査所 著者 楠田丘)、加点主義人事考課(経営書院 著者 楠田丘)、改訂5版日本型成果主義の基盤職能資格制度(経営書院 著者 楠田丘)