特集記事公開日:2020年10月3日 更新日:2020年10月24日

源泉徴収と年末調整の我が国の起源

なぜ、本来は国が行うべき確定申告業務を、会社が年末調整という形で肩代わりしなければならないのでしょうか?今一度考えていただきたく2017年のメルマガで特集した内容と同一内容を再掲することといたしました。過去を紐解き、個々人で未来を考えていただく主旨です。
もはや会社での対応は困難であり、年末調整は廃止し確定申告を義務付けるべき、という考え方もあるでしょう。今後の年末調整の在り方について、考えて頂くきっかけとなれば幸いです。
(本特集では特に結論はありません)

源泉徴収と年末調整の始まりについて

所得税の仮払いが源泉徴収、給与支払者が税務署に代わって所得税の確定額との差額を清算する手続きが年末調整、この源泉徴収と年末調整は一体となって運用されています。
国としてとりっぱぐれが少ない、源泉徴収・年末調整システムの最大のメリットが徴税側の便宜にあることは議論を待たないでしょう。
私はかねてから、給与所得者は個人で確定申告をするのではなく、なぜ給与支払者が年末調整をするのだろう、と疑問に感じていました。税法改正を重ね年末調整はより複雑化し、年末調整事務による企業のコストおよびリスク負担も看過できないのではないかと思います。

源泉徴収と年末調整の始まりについてのQ&A

そこで、「源泉徴収と年末調整の始まり」について簡単に調べてみましたので、その結果をQ&Aにまとめました。
源泉徴収、年末調整導入の意思決定にあたっては当時苦悩も多かったようで、現在の価値観で当時の意思決定を論評することは簡単ではないと思います。今回の特集は、源泉徴収、年末調整の在り方を批判するために組んだものではなく、源泉徴収、年末調整導入当時の目的等を概観することにより、その後法改正を重ねた結果である現在の年末調整の在り方が本当によいのか、個々に考えて頂きたいという思いから組みました。
Aについては、源泉所得税・年末調整導入したときの文献からすべて引用したいと考え努力しましたが、入手困難なものも多く、その希望は叶いませんでした。
しかし、リアリティが持てるようできる限り古い文献から引用しています。

源泉徴収と年末調整はいつから始まったのでしょうか。

源泉徴収は1940(昭和15)年、年末調整は1947(昭和22)年に始まっています。

源泉徴収と年末調整はなぜ始まったのでしょうか。

源泉徴収制度の始まりについて、以下のように文献に記載されています。

「わが国の源泉徴収制度は(中略)日中戦争のさなかの戦時増税、大衆課税を目的に始まった。」
「そして年末調整は(中略)不足しがちな徴税能力を補うため、国が雇用主に手数料を支払って*徴税業務を代行させたのが嚆矢であった」

源泉徴収と年末調整 納税者の意識をかえられるか 齋藤貴男著 中公新書 1996年

  • *「手数料を支払って」とはA3で触れる交付金制度のことです。

さらに源泉徴収導入当時の文献によると源泉徴収制度について次のような記述があります。

「即ち戦争には増税は不可避であり、増税の対象として先づ所得税が考へられたのは当然であるが、其の為には負担の普遍化を図り、多数の国民をして分に応じた国費の負担を為さしめることが、どうしても前提になるのであつて、其の結果激増する納税者が比較的経済上の苦痛も少なく、簡易な方法で納税出来るやうにするには源泉課税の方法を採用する外なかつたのである。」

源泉課税 小林長谷雄・雪岡重喜・田口卯一著 賢文館 1941年

そして年末調整については、終戦後、国の徴税能力が不足していた為、国の徴税業務の手間を省き、税収を上げることが主目的だったようです。

「この税金の清算には、通常の場合はいわゆる確定申告を税務署へ提出して行う。しかし、給与所得者は、大部分一箇所の給与の支払者から支払われ、その支払者のもとで確実に清算することが可能であるので、
これらの者がいちいち確定申告を行うことは、給与所得者自身も、大変手数を要するので、給与の支払者が給与所得者にかわつて税額の清算を行うこととしている。」

改正源泉徴収 名古屋国税局法人税課内源泉所得税研究会編 日本書館 1953年

「かりに、給与所得者のすべてが確定申告書を提出して税金の過不足額を清算することとしたのでは、給与所得者にとっても、国にとっても、非常に手数のかかることですから、給与所得者については給与の支払者に源泉徴収事務の一環としていわゆる清算事務をも行っていただくことを定め、これによって大部分の給与所得者は確定申告書を提出しなくてよいことになっております。」

年末調整の手引 東京国税局法人税課源泉所得係長 牛木昭次郎著 税務研究会出版局 1970年

交付金制度は現在存在しませんがいつごろ廃止になったのでしょうか。

調べたところ定かではないのですが1950年以後から廃止されているようです。

「交付金制度があった時代も、税務署に対して請求をしてくる源泉徴収義務者はほとんどなかったという。」
「請求してくるのは市役所とか、郵便局とか、お役所ばかりでした。(中略)無駄な費用を遣ったとして、落ち度になるからなんですね」
「戦争中は企業が徴税代行をしたからといって、お上に手数料を請求できる雰囲気ではなかった。」
「源泉徴収義務者に対する交付金制度は、シャウプ以後の所得税法からは廃止されていた。」

源泉徴収と年末調整 納税者の意識をかえられるか 齋藤貴男著 中公新書 1996年

と記述されています。

  • ※シャウプとは、コロンビア大学のカール・サムナー・シャウプ博士のことで、GHQの要請を受けてシャウプ勧告を行った人物です。日本の税制の生みの親といわれています。

源泉所得税制度によってどのような成果が上がったのでしょうか。

税務当局の源泉所得税部門は他部門と比べて問題も少なく、巨額な税収をあげることができたようです。

「源泉徴収所得税は、源泉徴収義務者の高い納税協力に支えられて、巨額の税収をあげることができ、その税務執行は、他の部門と比べて最も問題の少ない分野であったといってよい」

昭和財政史 終戦から講和まで 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1977年