中小企業・スタートアップ企業に最適な人事制度
『こぢんまり人事制度』とは?
~シンプル・コンパクト・骨太の評価・賃金制度~

なかの経営労務事務所では、中小企業、スタートアップ企業からの「人事評価制度」、「賃金制度」の新規導入や再構築のニーズが増えています。

「人事評価」は従業員数の多寡を問わず必要であり、少人数の会社においては評価者である社長の頭の中の主観や価値観等で人事評価をすることでなんとかやり繰りすることが可能です。
社員数が増えるとどうでしょうか?「人事評価」を仕組み化した「人事評価制度」導入のニーズは、私の肌感覚では従業員数20人を超えたところから増え始める印象を持っています。
これは社長の頭の中の主観や価値観等で行う「人事評価」がブラックボックス化して様々な弊害が生じ、手に負えない状態になる為ではないかと推察しています。
「人事評価制度」を導入すれば、「人事評価結果」を昇給や賞与といった処遇へ反映する仕組みである「賃金制度」を導入するニーズが出て参ります。せっかく導き出された「人事評価結果」を処遇反映の基礎資料にしない手はないからです。
本記事では、社員数が増えて「人事評価制度」の導入の必要性が出てきた企業、一度導入した「人事評価制度」がうまく機能しなかった企業に対して、概ね従業員数20人から50人(以下、本記事では小規模といいます)の中小企業、スタートアップ企業に最適な「人事評価制度」、「賃金制度」を備えた『こぢんまり人事制度』を解説致します。
人事評価制度は古い、人事評価制度は不要など、人事評価制度を批判する風潮がありますが、雇用慣行がメンバーシップ型雇用である我が国にとって、人事評価制度は必要不可欠なものである認識を筆者は持っています。「(我が国で『新しいパフォーマンスマネジメント』の導入は進むのか」 「ノーレイティングとは何か? 」をご覧ください)

『こぢんまり人事制度』とは

『こぢんまり人事制度』は、私の師である河合克彦先生が書籍『小さな会社のための“こぢんまり”人事・賃金制度のつくり方』(日本法令)で紹介したことが始まりです。書籍『小さな会社のための“こぢんまり”人事・賃金制度のつくり方』は本記事の筆者(なかの経営労務事務所 代表 中野 剛)が編集協力を務め、『こぢんまり人事制度』の設計等に微力ながら助言等をさせて頂きました。

『こぢんまり人事制度』は、河合克彦先生が30年を超えるコンサルティング経験から、小規模の中小企業、スタートアップ企業であっても導入・運用が可能な人事制度として、従来の「人事評価制度」、「賃金制度」の内容を大幅にシンプル化・コンパクト化した人事制度です。最大限簡素化はしていますが、「人事評価制度」、「賃金制度」として最低限必要な要素や機能をしっかりと残しており全く手は抜いていません。シンプルかつコンパクトでありながら骨太の人事制度と言えるでしょう。

『こぢんまり人事制度』の特徴

世の中には様々な「人事評価制度」が存在します。

「人事評価制度」にはどのような種類があるのかについてWEBで検索してみましょう。おそらく「人事評価制度」には「能力評価」、「情意評価」、「成果評価」、「コンピテンシー評価」、「バリュー評価」、「360度評価」などの種類が存在するといった解説がなされたページが数多く表示されるものと思われます。
確かにその通りかもしれませんが、小規模の中小企業やスタートアップ企業ではとても上記の中から自社に適合する「人事評価制度」を取捨選択して導入し運用することは、主に人的リソース不足を原因として困難ではないかと考えます。
「賃金制度」には一般的に基本給の賃金表が存在します。賃金表を作れるのだろうか、作った後にうまく運用できるのだろうか、「賃金制度」の導入経験が乏しい小規模の中小企業やスタートアップ企業であればそのような不安は拭いきれないでしょう。
『こぢんまり人事制度』においては、「人事評価制度」は極めてシンプルかつコンパクトですが運用に必要な要素や機能はひと通り揃っていますので、よほどのこだわりがなければ、ほぼそのままの内容で導入することが可能です。「能力評価」、「情意評価」、「成果評価」、「コンピテンシー評価」、「バリュー評価」、「360度評価」などから取捨選択を迫られることは一切ありません。
「賃金制度」はややこしい基本給の賃金表が存在しませんので、「賃金制度」の導入経験が乏しい中小企業やスタートアップ企業であっても安心して導入することができます。
ここまで『こぢんまり人事制度』の外観を解説してきましたが、ここからはどのような特徴があるのかについて、もう少し細かく見ていきましょう。

・人事制度全体が極めて簡素であること


『こぢんまり人事制度』は大変シンプルかつコンパクトであり、このように図式化することができます。

こちらの図に基づき、ひとつひとつ簡単に解説していきます。

・「経営理念」

経営理念とは、「経営するにあたっての根本的な考え方」のことです。

「経営するにあたっての大切にしたい価値観」と言い換えることもできるでしょう。明文化されていることもありますが、明文化されていない場合であっても必ず社長の頭の中に存在します。
経営理念や大切にしたい価値観から紐解いて「役割能力要件表」を作成します。

・「役割能力要件表」

「役割能力要件表」は、等級別に「期待される役割」・「必要とされる知識技能」を記述するもので、等級別に「期待される役割」のレベルと「必要とされる知識技能」の保有のレベルを表します。

「役割能力要件表」には二つの役割があります。一つ目は社員を等級ごとに格付けするときの基礎資料とすること、二つ目は「人事評価項目」を設定するときの基礎資料とすることです。
『こぢんまり人事制度』の「役割能力要件表」は全職掌共通もののみを作成しシンプル化を図っています。
「職掌」とは職務の区分のことで、具体的には営業職、事務職、製造職などが挙げられます。通常の「役割能力要件表」は全職掌共通のものに加え、部署別に職掌固有のものを作成します。しかし、小規模の中小企業やスタートアップ企業であれば、全職掌共通のものだけでも運用に耐えられるだろうと長年のコンサルティング経験から判断した為、『こぢんまり人事制度』では「役割能力要件表」を全職掌共通のもののみとしているのです。
私のコンサルティング経験上、小規模の中小企業やスタートアップ企業であれば、「役割能力要件表」の雛形をほぼそのまま使用して社員を等級に格付けすることが可能です。理由は「経営理念」が異なったとしても「役割能力要件表」において、どの会社であっても最低限必要な内容が記述されている為です。「役割能力要件表」を作成する時間と労力が大幅に削減されます。
※「必要とされる知識技能」については、現実的な内容に変更したり削除したりする必要があります。

・「人事評価」

人事評価は「能力評価」、「情意評価」、「成果評価」、「コンピテンシー評価」、「バリュー評価」など多種類ではなく「人事評価」一本にまとめています。「役割能力要件表」を元に「人事評価項目」は作成されており、具体的な人事評価項目は次のとおりです。

  • 【主に非管理職社員の人事評価項目】
    業務遂行結果、報告連絡相談、チームワーク、能力開発、知識伝達、業務改善、顧客満足性
  • 【主に管理職社員の人事評価項目】
    業務遂行結果、リーダーシップ、課題形成、人材育成、人事管理、組織運営
  • 【共通の人事評価項目(知識技能の保有の程度を評価する項目)】
    知識技能力
  • 【共通の人事評価項目(守って当たり前なので守れなかったときのみに減点評価する項目)】
    職場規律
このように、業種を問わず導入可能なシンプルで分かりやすい「人事評価項目」を厳選して設定しています。
私のコンサルティング経験上、「人事評価項目」の雛形をほぼそのまま使用して導入・運用が可能です。人事評価項目を作成する時間と労力が大幅に削減されます。

・「昇給」

基本給の賃金表はありません。基本給には等級別に上限額下限額の設定があるのみです。

昇給は、上限額下限額の間で行いますので、上限額に達した場合は昇給がストップします。昇給がストップしたからといって自動昇格することはありません。
昇給は計算式を使用して行います。昇給合計額が昇給原資に収まるよう補正比率を使用します。
これにより「人事評価」と「昇給」の理論が断ち切られるので、「昇給」を気にしながら「人事評価結果」を調整する(例:見込んでいた昇給原資に収まるよう個人別の人事評価結果を修正する など)必要はありません。

・「賞与」

賞与は従来どおりの計算方法でも構いません。

『こぢんまり人事制度』の賞与計算方法を採る場合は、等級別、人事評価得点別に用意された計算式を使用して行います。賞与合計額が賞与原資に収まるよう補正比率を使用します。
これにより「人事評価」と「賞与」の理論が断ち切られるので、「賞与」を気にしながら「人事評価結果」を調整する必要はありません。

・「昇格」

「昇格」は年功で行うべきではありません。昇格基準をしっかり設けて選ばれた社員が昇格する必要があります。

通常は3つの基準(直近数年の人事評価得点、上司の推薦、社長による審査)を設けて昇格を決定します。

・「退職金」

「退職金」を導入する場合は、過去の貢献度を適切に反映できるポイント制を勧めています。

退職時の基本給をベースに算出する方法は過去の貢献度を適切に反映できない可能性があるので避けるべきと考えます。

『こぢんまり人事制度』を導入した後の効果

運用しやすいシンプルでコンパクトな『こぢんまり人事制度』を導入した後、まず活用していただきたいのは「人事評価制度」です。まずは「人事評価制度」導入の効果を見ていきましょう。

・「人事評価制度」導入の効果

後述する「人事評価制度」導入の効果を最大限享受する為に、まずは評価者と社員で面談を実施しましょう。面談にあたっては、等級別の「役割能力要件表」をあらかじめ評価者と部下の双方が読み込んでおくことが必要です。

そして特に期初の面談では、評価者が部下に何を期待しているのかを明確に伝え、部下は評価者から何を期待されているのかを常日頃から認識し業務にあたることが必要です。
「何を期待されているのか」について評価者と部下が日ごろから共有された状態を作っておくことが何よりも大切であり、「役割能力要件表」や「人事評価項目」はその指標となるものです。指標となるものが存在すれば、面談も格段にやりやすくなります。
1on1など評価者と部下が頻繁に面談する機会を持ち対話する仕組みを導入する企業が増えています。
部下がやりたいこと、困っていること、改善したいことなどが、「役割能力要件表」や「人事評価項目」が存在することで、1on1などで評価者と部下が対話をしやすくなるでしょう。
対話の中で、評価者は部下を承認し、足りないところは何が足りないのか、どのように行動を改善すればよいのか等を部下に自ら考えさせ部下が自ら改善行動をとるよう支援する必要があります。また、評価者は部下の成長の為に、ときには耳の痛い話をする必要があります。
このように評価者と部下が対話をすることで、次のような「人事評価制度」導入の効果が得られます。

・経営理念や会社が大切にしたい価値観の浸透

対話を通じて、「経営理念」や「大切にしたい価値観」が浸透します。あわせて、「期待される役割」や「必要とされる知識技能」についても評価者と部下で共有することができます。

・コミュニケーションの促進

「人事評価制度」導入をきっかけに1on1などの対話の機会を設ければ、コミュニケーションは大幅に促進されます。

・モチベーションアップ

面談による対話の中で、できていることは率直に褒め、承認することが必要です。これは部下のモチベーションアップに繋がります。

・能力開発の促進

面談による対話の中で、足りないところは何が足りないのか、どのように行動を改善すればよいのか等を部下に自ら考えさせ部下が自ら改善行動をとるよう評価者は支援する必要があります。

また評価者は部下の成長の為に、ときには耳の痛い話をする必要があります。これらは部下の能力開発の促進に繋がります。

・マネジメント力の向上

「人事評価制度」導入により、面談による対話を通じて上司(評価者)が部下の成長を支援することができる第一の理由は、上司(評価者)に評価権がある為です。

評価権を持つことは、重責を担うことでもあります。部下の成長の為に、承認によって部下の成長を支援するだけでなく、部下の成長の為にときには耳の痛い話をすることは外部のコンサルタントではできません。
部下とともに日々同じ組織で働き、部門の中で重責を担っている評価者だから成しえるのです。上司は評価者として部下の成長を日々支援することによって、評価者のマネジメント力は確実に向上します。
「人事評価制度」は部下の育成、能力開発に主眼を置いてあたることが何よりも大切であり、処遇を決めることを主眼においてあたることは避けるべきだと筆者は強く感じています。
「人事評価制度」によって得られた「人事評価結果」は結果的に処遇への反映に使用すべきです。
しかしながら、殊更に、今期の人事評価得点は〇〇点だったので昇給は〇〇円、賞与は〇〇円といったような、「人事評価結果」と「処遇への反映」を結び付けたフィードバックはやるべきではありません。
「処遇」に真っ先に目が行き「人事評価結果」を率直に受け入れることができず「人事評価結果」に対して不満が生じる可能性があること、「人事評価」の本来の目的である部下の育成や能力開発等がおざなりになりかねないこと、などの理由が挙げられます。

・「賃金制度」導入の効果

『こぢんまり人事制度』における「賃金制度」は、補正比率により「昇給」、「賞与」原資に収まる仕組みが備わっていますので、「昇給」、「賞与」原資を気にしながら「人事評価」にあたる必要はありません。

これは「人事評価制度」による部下の育成、能力開発を重視する企業にとって、「人事評価」をすることが各段に楽になることを意味します。

『こぢんまり人事制度』を導入するには?

『こぢんまり人事制度』を導入する方法として、もっともリーズナブルな方法は、書籍を購入し熟読して自力で導入する方法です。

社員数20人~50人程度であれば、最短3ヵ月での導入が可能です。
筆者は中小企業、スタートアップ企業に対して『こぢんまり人事制度』の導入コンサルティングの経験が数多くありますが、どの会社も最短3ヵ月、最長6ヵ月で導入に至りました。「人事評価制度」、「賃金制度」として必要最小限の要素や機能はそろっていますので大きな労力はかかりません。 『こぢんまり人事制度』の「人事評価制度」についてはほとんどアレンジすることなく導入した企業がほとんどです。
「賃金制度」については、等級ごとに基本給の上限下限を設定しますので、上限を超える社員、下限を下回る社員が複数人発生する場合の対応に時間を最も要しています。不利益変更は避けるべきなので、シミュレーションを実施し、しっかりとした対策をとることが必要です。
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