360度評価(多面評価)とは何か?
〜人事コンサルタントが詳しく解説〜

「人事評価」はさまざまな評価方法があります。「MBO(目標管理制度)」「コンピテンシー(高業績者の行動特性)」など、さまざまな手法が取り入れられています。

いずれにしても、評価の客観性や公平性を担保する必要があり、評価者によって評価結果が左右されることがあってはなりません
そうした状況下で注目されているのが、360度評価(多面評価)です

Q.360度評価とは、どんな評価手法ですか?

A.
360度評価(多面評価)は、一人の被評価者に対して関係する複数の社員(先輩、同僚、後輩、部下など)が評価者として評価をする手法です。
公平性、客観性を担保し、多面的な視点での人事評価が期待されます。
一方で、360度評価(多面評価)において「能力」を評価することは困難であると言われて、具体的な「行動」を通じて「結果」を評価をする場合が多いようです。
以下に、360度評価について、その目的や方法、評価手法としてのメリット、デメリットを交え詳しく解説します。

360度評価(多面評価)について

一般的な人事評価制度は、評価者(評価権を持った上司)が被評価者(部下)を評価する、といった具合に1対1の関係で人事評価を実施します。

360度評価(多面評価)は、1対1での評価だけではなく、一人の被評価者に対して関係する複数の社員(先輩、同僚、後輩、部下など)が評価者として評価をすることから、多面的な視点で人事評価がなされるものです。
場合によっては他者を評価した経験の無い社員が、上位職位者を評価することになりますので、評価する場合の「評価の対象」を明らかにしておく必要があります。
被評価者(評価される者)より能力が劣る社員が評価者として評価する場合もあることから、360度評価(多面評価)において「能力」を評価することは困難であると言われています。
よって、一般的には具体的な「行動」の観察を通じて「結果」を評価をする場合が多いでしょう。例えば「上司の〇〇行動の観察を通じて、〇〇実行度合いを評価(明らかに)する」などです。

360度評価(多面評価)をどのような用途で活用するのか?

360度評価(多面評価)の活用の用途(利用の目的)は、以下の四つが挙げられます。

  • ①潜在的な問題の顕在化
  • ②人材育成
  • ③組織活性化・組織改革
  • ④人事評価への反映
どれか一つを選択するのではなく、複数を組み合わせて活用するケースが多いと思われます。以下、それぞれの用途について解説します。

①潜在的な問題の顕在化

本来は評価者の評価能力が一定水準以上あり、どの評価者が評価しても結果は同じ又は大体同じであることが理想です。

しかしながら、現実的にはそのような状態にはならないケースの方が多いかもしれません。
このような状態の下での人事評価結果は、評価者が被評価者を評価する1対1の評価結果において、評価者の(悪い意味での)主観が入っていることがあり、職場の実態などの事実を十分に反映出来ていない可能性があります。
評価者が好き嫌いよるレッテルを貼って評価するため特定の社員を厚遇又は冷遇していたり、評価者の評価能力が高くないことから実態と乖離する評価をしていたりするケースが想定されます。
また、物理的に役員や人事部の目が行き届きにくい部門では、評価結果が正しい実態を表していない可能性もあります。
例えば、社長や人事部が、文字や数字の羅列による評価結果のみを確認しても、潜在的な問題(問題として表面化していない上司によるコンプライアンス違反やハラスメント等)などは浮かび上がらないケースが想定されます。
特に、社長や人事部の目が届きにくい地方の拠点などの場合は顕著である可能性があります。
360度評価(多面評価)を導入することで、被評価者(評価される者)を上司、評価者(評価する者)を部下とし、評価者の匿名性を確保することで、潜在的な問題を顕在化することができます。
ただし、本用途のみとするのであれば、360度評価(多面評価)を実施するまでもなく、職場環境アンケートなどを実施することで代替可能かもしれません。

②人材育成

360度評価(多面評価)は人材育成に活用されるケースが圧倒的に多いかもしれません。

360度評価(多面評価)による評価結果を、被評価者にフィードバックすることで、自身の強み、弱みなどの気付きを与え、行動変革を促す効果が期待できます。
周囲からの評価やフィードバックは、良い意味で緊張感を与え、自発的な行動変革に繋がる可能性があります。

③組織活性化・組織改革

360度評価(多面評価)の評価項目に、社員に対して期待したい具体的な行動を加えます。

360度評価(多面評価)では数多くの社員が評価者として参画しますので、その評価項目で被評価者を評価するプロセスを通じて、社員に対して期待したい具体的な行動を、被評価者のみならず、数多くの評価者に意識させる効果が期待できます。
会社が社員に対して期待したい具体的な行動をあらかじめキチンと評価者が理解しなければ、評価者は被評価者を評価できないからです。
これは、企業の価値観の浸透、組織活性化等に繋がります。
また、360度評価(多面評価)の評価結果より、組織が抱える課題の傾向が明らかになる場合がありますので、その課題を解消する為に組織活性化や組織風土改革のプログラムを組み込んだ研修を実施することで、組織活性化や組織改革に役立てることもできます。

④人事評価への反映

人事評価への反映は、大きくは「昇給や賞与への反映」、「昇格や昇進への反映」に分けることができます。

昇給や賞与へ反映させると、部下、後輩、同僚からの評価で昇給や賞与が決定されるという不安感が先に立ち、組織内に萎縮や警戒心が生まれ、人間関係を悪化させる大きな懸念があり、昇給や賞与へ反映させる企業は少ないと思います。
実際には、昇格や昇進、人事異動に伴う配置の決定の際の「判断材料」としているケースが多いでしょう。

360度評価(多面評価)のメリットとは?

360度評価(多面評価)のメリットは、

  • ①見える化の促進
  • ②評価結果の客観性・納得性の向上
  • ③気付きによる自己成長

以下、それぞれ解説していきます。

①見える化の促進

1対1の評価のみの場合、社長や人事部は、現場で働く社員の特徴の把握を、評価者(評価権を持った上司)の主観が入った評価に頼らざるを得ませんでした。

しかし、360度評価(多面評価)を導入すれば、被評価者(評価される者)である社員を、周囲の複数の社員が評価しますので、職場の実態を浮き上がらせることができます。
例えば、管理職社員である被評価者の所属支店の業績が良いため、1対1の人事評価結果においてはその直属上司からは高く評価されていましたが、360度評価(多面評価)を導入することで部下に対してハラスメント行為をしたり、マネジメントを疎かにしたり、人材育成に取り組んでいなかったり、部下から信頼されていなかったりするなどの実態(問題)を浮き上がらせることが出来ます。
このように、360度評価(多面評価)を導入することで見える化が促進されます。

②評価結果の客観性・納得性の向上

1対1の評価のみの場合、評価者(評価権を持った上司)が確認できる限りの行動や結果によって評価することになります。

360度評価(多面評価)を実施すると、評価者(評価権を持った上司)による評価に加え、被評価者を取り巻く複数人による様々な視点で評価することになります。
これは、評価者(評価権を持った上司)が確認出来なかった(見えなかった)行動や結果に対する評価結果であったり、評価者(評価権を持った上司)による評価とは対極的な(評価者が気付くことが出来なかった)評価結果であったり、評価者の主観的な評価結果を補う評価結果であったりするなど、評価者による主観的な評価結果を補う結果が得られることがあります。
評価のエラーに、ハロー効果、期末誤差、対比誤差、理論誤差などがありますが、1対1の評価と比較して、多面的に評価することで評価のエラーに陥りにくい結果を得ることができます。
これは、評価結果の客観性や納得性を高める効果が期待できることを意味します。

③気付きによる自己成長

様々な視点での人事評価結果を被評価者にフィードバックすることによって、被評価者に対して、自身の強みや弱みに気付かせる機会を与えることができます。
上記②で評価結果の客観性や納得性が向上できれば、360度評価(多面評価)結果のフィードバックによって、気付いた強みをさらに伸ばし、弱みを克服する為の努力を自ら行う「気付きによる自己成長」が期待されます。

360度評価(多面評価)のメリットとは?

360度評価(多面評価)のデメリットは、

  • ①人間関係悪化のリスク
  • ②大きな運用負荷

以下、それぞれ解説していきます。

①人間関係悪化のリスク

360度評価(多面評価)の導入趣旨(企業ごとに異なります)を十分に理解せず、評価者が他者を評価する者としての一定レベルの知識や力量を持ち合わせることなく、日ごろ感覚的に思っていることを単に評価するのみでは、評価結果に好き嫌いや感情的な主観が入ってしまう可能性があります。

このような状態で運用を続けると、むしろ組織内の人間関係が悪化し、360度評価(多面評価)が機能しなくなってしまいます。

②大きな運用負荷

360度(多面評価)を導入するにあたり、人事部では、評価者の選定基準の作成、評価項目や評価基準の作成(評価経験が無い社員を想定し具体的な行動や結果を評価する項目を別途作成)、スケジュールの作成、評価にあたっての説明資料の作成、必要に応じて評価者研修を実施するなど、従来の1対1の評価と比較し運用の負荷は大変大きなものになります(外注する方法もありますが、負荷は間違いなく増えるでしょう)。

また、360度評価(多面評価)では、複数人で一人を評価する為、従来の1対1の評価よりも、一人の被評価者の評価する為に要する時間が数倍に膨れ上がります。

360度評価(多面評価)の導入傾向

労政時報4020号(2021年9月10日発行)には、360度評価・多面評価の実施状況について以下の結果が掲載されていました。

 一般社員 管理職
実施して
いる
9.1% 18.6%
実施予定
・検討中
13.7% 15.5%
実施して
いない
76.8% 63.7%
上記、調査時点では実施していない企業数が多い結果となっています。
ただし、人数規模が大きい企業・団体では、360度評価(多面評価)を導入することのメリットはそれなりにあると思いますので、一般社員に先行して管理職に対する導入企業は徐々に増えていくのではないかと思われます
導入にあたっては、活用の用途(利用目的)を明らかにし、社員へ浸透させることが何よりも重要です。