就業規則の作成・改定時の
チェックリスト
〜法的リスクを最小化するために〜

企業活動において、従業員とのトラブルを未然に防ぐためには、就業規則の整備が不可欠です。

特に近年では、労働契約法や労働基準法の改正、判例の蓄積により、就業規則の重要性が強まっています。就業規則は単なる社内ルールではなく、法的拘束力を持つ「労働契約の内容を定める文書」として機能します。
本記事では、法的リスクを最小限に抑えるための就業規則作成・改定時のポイントを、実務に役立つチェックリスト形式で詳しく解説します。

01.「就業規則」とは?その定義と目的

就業規則とは、企業が従業員の労働条件や職場の規律などを定めた規則のことです。

就業規則の目的は、 就業規則に労働条件や服務規律を記載し周知することで労働条件や服務規律の理解の食い違いによる労使トラブルや労使紛争を未然に防止することにあります。
かつ、従業員が安心して働ける職場づくりの基盤とすることが挙げられます。

02.就業規則の労働契約法における位置づけ

就業規則は、労働契約法第7条により労働契約の内容となる法的効力を持ちます。

合理的な労働条件等を定めた就業規則が従業員に周知されていれば、個別の合意がなくても就業規則の記載内容が労働契約の内容として効力を持つため、企業運営における重要なルールブックとして位置づけられることとなります。

■労働契約法第7条と就業規則

労働契約法第7条では、「就業規則に定める労働条件が合理的なものである場合、労働契約の内容となる」と規定されています。

これは、個別の労働契約に明記されていない事項でも、合理性が認められれば就業規則の内容が労働契約の内容(契約条件)として効力を持つことを意味します。

■労働契約法第10条と就業規則

また、労働契約法第10条では、就業規則の不利益変更について「変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」とされています。

不利益変更には特に慎重な対応が求められます。

03.就業規則の労働基準法における位置付け 〜絶対的記載事項・相対的記載事項〜

労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する事業場において、就業規則の作成・届出が義務付けられています。

記載すべき事項は「絶対的記載事項」と「相対的記載事項」に分類されます。

■就業規則の絶対的記載事項
(必ず記載しなければならない項目)

労働基準法第89条に定める絶対的必要記載事項とは、すべての企業が就業規則に必ず記載しなければならない基本的な労働条件のことであり、具体的には次に定めるとおりです。

これらは労働者の権利を守り、労使間のトラブルを防止するために不可欠な事項であり、企業規模に関係なく記載することが労働基準法により義務付けられています。
  • ・始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇
  • ・賃金の決定・計算支払方法、締切・支払時期・昇給
  • ・退職(定年、解雇事由含む)

■就業規則の相対的記載事項
(定めがある場合に記載する項目)

労働基準法第89条に定める相対的必要記載事項とは、制度として定めがある場合に限り、就業規則に記載しなければならない労働条件のことであり、具体的には次に定めるとおりです。

会社がこれらの制度を導入しているなら、必ず記載することが労働基準法により義務付けられています。
  • ・退職手当が適用される労働者の範囲・退職手当の決定・計算支払方法・退職手当支給時期
  • ・臨時の賃金
  • ・食費、作業用品その他の負担
  • ・安全・衛生
  • ・職業訓練
  • ・災害補償・業務外傷病扶助
  • ・表彰・制裁(懲戒)
  • ・その他事業場の労働者のすべてに適用される事項

チェックポイント

  • 絶対的記載事項が漏れなく記載されているか
  • 相対的記載事項について、制度があるのに記載漏れしていないか
  • 記載内容が最新の法令や社内制度に合致しているか
  • 労働基準監督署への届出が適切に行われているか

04.懲戒処分・未払い賃金リスクへの対応

懲戒処分は就業規則における根拠記載漏れ(記載不備を含む)や懲戒処分手続き不備等により無効となる民事的リスクがあり、特に解雇・降格は裁判で争われることも多いので特に就業規則への記載には留意が必要です。

また、固定残業代を導入する場合は、就業規則への記載漏れ(記載不備を含む)で未払い賃金リスクが高まります。
さらに、就業規則の記載内容と実際の運用と整合性をとることが不可欠です。
以下ポイントについて解説します。

■懲戒処分の民事的リスク

懲戒処分は企業秩序を維持するための重要な手段ですが、処分の根拠が曖昧だったり、手続きが不適切だったりする場合、無効とされるリスクがあります。特に懲戒解雇や降格などの重い処分は、裁判で争われるケースも多く、慎重な運用が求められます。

チェックポイント

  • 懲戒事由が具体的かつ明確に記載されているか
  • 懲戒の種類(戒告、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇など)が段階的に整理されているか
  • 処分手続き(事前の聴聞、弁明機会など)が適正になされているか
  • 懲戒処分の相当性・均衡性が保たれているか(同様の違反に対して一貫した対応がされているか)

■固定残業代の記載漏れによる未払い賃金リスク

固定残業代制度を導入している企業では、就業規則や雇用契約書に明確な記載がない場合、制度自体が無効と判断される可能性があります。

これは、未払い賃金請求や労基署の是正勧告につながる重大なリスクです。

チェックポイント

  • 固定残業代の時間数・金額・算定根拠が明記されているか
  • 固定残業代を超える残業に対して追加支給する旨が記載されているか
  • 実際の残業時間と制度の整合性が取れているか(過少申告になっていないか)

05.就業規則作成・改定時の総合チェックリスト

上記の説明を踏まえて就業規則の新規作成時、就業規則の改定時に漏れなくチェックしておきたい事項を下表にまとめました。

特に、就業規則を改定する場合は、改定したい内容のみならず、他の内容についても、記載漏れが無いか、記載内容が最新の法令に適合しているか等についてチェックリストを活用の上、漏れなく改定しておきたいところです。
カテゴリ チェック項目
法的整合性 労働契約法・労基法との整合性があるか
周知義務 労働者に対して就業規則が周知されているか
記載事項 絶対的・相対的記載事項が網羅されているか
賃金制度 賃金体系・支払方法・固定残業代の記載が明確か
労働時間 始業・終業時刻、休憩、休日、休暇が明記されているか
フレックスタイム制 フレックスタイム制を導入する場合は要件を満たす内容が記載されているか
変形労働時間制 変形労働時間制を導入する場合は要件を満たす内容が記載されているか
テレワーク 在宅勤務等の記載があるか
退職・解雇 定年、退職事由、解雇手続きが明確か
昇給・賞与 昇給・賞与の有無と基準が記載されているか
災害補償 労災補償が記載されているか
安全衛生 安全衛生管理の内容が記載されているか
育児・介護 育児・介護休業制度が整備されているか
懲戒処分 懲戒事由・種類・手続きが明確か
表彰制度 表彰の基準と種類が記載されているか
ハラスメント ハラスメント防止規程が整備されているか
個人情報 個人情報保護に関する記載があるか
兼業・副業 副業・兼業の可否と条件が明記されているか
服装・身だしなみ ドレスコードや衛生管理に関する記載があるか
業務命令 業務命令の範囲と拒否時の対応が明記されているか
休職制度 傷病・メンタルヘルス等に関する休職制度が整備されているか
復職判断 復職の判断基準と手続きが明記されているか
労使協定 三六協定など関連協定との整合性があるか
契約書との整合 雇用契約書と内容が矛盾していないか
判例対応 最新の判例を踏まえた記載になっているか
届出義務 労基署への届出が適切に行われているか

06.まとめ:専門家によるチェックの重要性

就業規則は、企業と従業員の間の信頼関係を築く基盤であり、法的トラブルを未然に防ぐ盾でもあります。

制度の複雑化や判例の変化に対応するためには、社労士など専門家による定期的なチェックと改定が不可欠です。
東京都港区に所在するなかの経営労務事務所では、最新の法令に則り法的リスクを最小化する就業規則をご提案します。